■事案の概要
ある会社に税務調査が入り、社長の私的な資金取引に関し、税務当局の一方的な指摘で会社に1500万円の追徴課税と同資金を流用したとする社長への数千万円の貸付金認定がなされました。
会社側は長期分割納付を申し出たものの、税務当局は認めず、3ヶ月後には、とうとう、会社に対し顧客名簿の提出と租税債務に対する社長の連帯保証を求めてきました。
■弊社への相談
相談を受けた弊社は、顧客名簿を提出すれば売掛金を即座に差押えられ、信用毀損により事業は廃止に追い込まれることと、社長が租税債務の連帯保証をすると、自己破産をしても、一生租税債務から逃れられなくなる事実を指摘しました。社長は弊社の指摘で、初めてことの重大性に気づき弊社に再生支援の依頼をされました。
まさに土壇場での再生依頼であり、社長の素行には問題があり債権者も税務当局という公的機関であったため、本事案は通常の再生案件とは異なり、債権者ないしは破産管財人との交渉になる困難な事案と思われました。
しかし、事業自体はオリンピック選手の育成塾という社会的に有用な事業を営んでおり、税務当局の一方的な差押行為により事業が頓挫するのは顧客(オリンピックを目指す育成選手)の立場から考えると不条理と考え、可能な限りの再生支援を行おうと決断しました。
■外科型事業再生
まず、売掛金の差押えによる事業破綻を回避するには、第三者に対する適法な事業譲渡取引しかないと考え、事業遂行能力のある譲受希望者の有無を確認したところ、オリンピックの元メダリストの該当者がいるとのことで、早速面談し事業譲受の意思と譲渡価格の説明を行い、相手方の承諾を得ました。
翌日、臨時株主総会を開催し、事業譲渡契約の承認を得た後、正式な事業譲渡契約を締結し資金決済の後、顧客にもその旨を即刻通知しました。そして、この一連の手続終了後、社長を弁護士のところに連れて行き、会社の自己破産申立を弁護士に依頼しました。
本件における最大の懸念は、税務当局の差押え行為による事業破綻でしたが、債権者による差押えを法的に抑止しうるのは、裁判所による自己破産開始決定による「差押禁止命令」しかないため、弁護士には直ちに自己破産の申立を行ってもらいました。それでも自己破産の申立から開始決定までの期間が3〜4日近くあるため、この期間だけはただ差押え手続が実行されないことを願うばかりでした。そして、差押実行前に破産開始決定が出されたため差押は免れましたが、税務当局から顧客に対する事業譲渡取引の照会がなされ、顧客側に動揺が走りましたが、事業譲受人の説明努力により「事業の存続」という当座の目的は達することができました。